死神の巫女

後編

 気が付けば、他人の死が見えるようになっていた。
 物心ついた頃には、何となくもうすぐ死ぬ人間が見分けられるようになっていた。物事の是非がつけられる年齢になれば、それが死を予知する力であることに気付いた。
 それが<死>の巫女の力であることを知ったのは、見知らぬ大人が目の前に現れたときだった。当時のアルフィティーネは知らなかったが、<死>の神殿の人間である。
 巫女として連れていかれるアルフィティーネを、両親はまるで汚いものを捨てるように追い払ったのを覚えている。独りぼっちになったのだと幼いながらもアルフィティーネは悟ってしまった。
 もう、誰も自分のことを気にかけてはくれないのだ、と。
 だが、連れていかれた神殿で一人の少年と引き合わされた。黒髪の、やけに恐い顔をした少年だった。背が高くて、ぎろりとアルフィティーネを見下ろしてきた。
 だが、その少年にアルフィティーネは笑って見せた。
 むしょうに嬉しかったのだ。この少年が誰であれ、自分を気にかけてくれることが。
 そうして、気付いた。
 自分が笑ったとき、少年の表情が一瞬だけ柔らかいものになった。慈愛に満ちた顔で、アルフィティーネを見てかすかに笑ったのだ。
 自分が笑えば良い。そうすれば……多分、この少年は少しでも嬉しい気分になれるから。
 だから、どんなに辛くてもアルフィティーネは精一杯笑っていることにした。それが、影のように自分を護ってくれるエノクへの唯一の恩返しだと思ったのだ。
 神殿での生活は静かなものだった。いつもエノクが側にいて、時折誰かの死を看取る。
 だが、穏やかな日々の中で、一つだけアルフィティーネが恐れているものがあった。
 <死>の巫女の能力は、自分に近しい者ほどはっきりと死の予兆を映し出す。今のアルフィティーネに一番近しい者と言えば、エノクだ。
 どうか、エノクにあの黒い靄《もや》が見えないように。それだけが願いだった。
 だがある日、それは打ち砕かれた。
 エノクはいつもと変わらない。だが、うっすらとした影は、次第に濃いものとなった。同時に神殿の外から聞こえてくる情勢が、<死>の神殿の危機を伝えていた。
 そして――先程出ていったエノクは、今まで見た中で一番濃い靄《もや》を纏っていた。
(あなたはもうすぐ死ぬの。もうすぐ、死の門をくぐらなくてはならないのよ)
 どうして彼にそんなことが言えただろう。
 自分を……<死>の巫女を恐れる人々の気持ちが、ようやく分かった気がした。誰も認めたくなどない。大切な人の死などを。
 死は終着点であり、輪廻の一つの経過に過ぎない。その象徴がアルフィティーネだ。
 けれど。
(離れたくないのよ……あなたと!)
 心の中でアルフィティーネは叫ぶ。
 死して肉体を失った魂は空に舞う。今までのしがらみの一切を捨てて……それまで一緒だった人々と離れて。
 離したくないと思うのは、残された人々の我が侭だろうか。
「…………」
 扉の外から、立て続けに金属がぶつかる音が聞こえてくる。それに、怒声と悲鳴。
 エノクが戦っているのだ。
 だが、アルフィティーネはその末路を知っている。エノクの死だ。自分を護ろうとして、必死に戦って……そして力尽き、倒れる。
 アルフィティーネの死の感知は絶対だった。外れることは決して有り得ない。
 それでも、と。
 恐怖と諦念に支配された心の片隅で、アルフィティーネは運命が否定されることを願った。

 エノクはふらりと剣を構え直した。
 大きく息が上がり、立っていることが何よりの重労働に思える。背を伸ばすことすらかなわず、前のめりになりながらも顔だけ上げて前を見据える。
 それでも、その手から長剣を離そうとはしなかった。
「まだ……まだだ」
 エノクは消え入りそうな声で呟いた。
(まだ残っている……)
 兵士の数は確実に減っていた。既にその大半が倒れ、床に屍をさらしている。だが、まだ全員倒したわけではない。
 何も考えず、ただ身体に馴染んだ感覚に従って踏み込む。確かな手応えがあり、また一人が床に倒れた。
「な……何なんだよ、こいつ……」
 辛うじて残っていた兵士の一人が、泣きそうな顔で呟いた。
 目の前のエノクは、見るも無惨な姿だった。背中に何本もの矢を生やし、鎧はあちこちが砕けている。そこかしこから血を流し、服がぐっしょりと血に染まっている。
 それでも――彼は立っていた。
 ぼろぼろになりながらも、目の光だけは消えない。黒瞳《こくどう》に確かな意志の光を宿し、前を見据えてくる。血に染まった剣を構え、斬りつけてくる。
「化け物だよ……化け物っ!」
 子供のように叫んだ兵士は、次の瞬間に斬り倒された。
 普通の人間ならば、とうの昔に倒れているはずだった。これだけの傷を負って生きていることすら不思議だ。だというのに、彼はまだ動いている。
 大量に血を失った貌は蒼白になっている。その中で瞳だけが異様な光を放っている様は、人間とは信じがたいものすらあった。
 やはり、この男は<黒騎士>なのだ。<死>の巫女を護る外道の騎士。
 鬼か悪魔か……そんなものが、人間の姿を借りてこの世に具現したのかもしれなかった。
「ひっ……」
 エノクに睨み付けられた兵士が、思わずうめいた。がちがちと歯を鳴らして後ずさる。
「何で……まだ生きてるんだよ……」
 目の前に迫ってくるエノクに、その兵士は泣きながら言った。
 何回斬っても、何回矢を射てもこの男は倒れない。確実に傷ついているのに、それでも剣を振ってくる。壊れた人形が動いているかのような不気味さだった。
「還る……までは」
 その言葉に、エノクは答えた。
 還るまでは死ねない。誓約を果たすまでは。自分が言ったとおり、この全員を倒してアルフィティーネの所に辿り着くまでは。
 彼女を護りきるまでは。
(失ってなるものか!)
 文字通り、血を吐きながらエノクは叫ぶ。
 貴様等にアルフィティーネを殺させてたまるものか。あの優しい少女を。自分が生きてきた理由の全てを。
 俺の、何よりも大切な人を!
 ずっと一緒に生きてきた。影のように側にいて、彼女の笑顔を見ていられるのが何よりも嬉しかったのだ。
 死が運命だと言うならば、黙って受け入れようとも思った。だが、魂が束縛を失う……孤独となるのが耐え難かった。彼女と離れる、それだけは許容出来なかったのだ。
 だから、万に一つの可能性に賭けた。戦い、敵を倒して彼女の元に還るという可能性に。
 どん、と鈍く重い手応えがある。エノクの剣は冷徹に兵士を斬り下ろした。血がしぶき、兵士が床に倒れる。
「はあ、はあ……」
 荒い息で……それすらも、自覚出来なくなってきていたが……エノクは広間を見回した。
 もう、立っている者はエノク以外にはいない。兵士は全員、屍となって倒れている。
「…………」
 しばらく、エノクはぼんやりと立ち尽くした。
 これは何を意味するのだろうか。立っているのは、もはや自分だけ。
 これは、つまり……
(俺が……勝った?)
 エノクは、ぼんやりとその言葉を反芻《はんすう》した。何度も何度も呟き、それからようやく納得する。
 最後に残ったのは自分。だから、自分が勝った。だから……
(これで……還れる)
 エノクはふわりと笑う。
 役目は果たした。これで、アルフィティーネの元に戻れる。また、いつも通りの静かな……しかし、満ち足りた日々に戻れる。
(これで……)
 エノクは笑うと、今まで死守していた通路に足を踏み入れた。
 もう通ることはないかもしれない、と思った細い道だ。アルフィティーネの元に……優しさ、嬉しさ、楽しさ、そんな幸せな全てのものに続く道。
 毎日のように見ていた、エノクにとっては一番馴染み深いとも言える場所だ。だが、何故だか初めて通った時のような錯覚を覚える。
 その理由はすぐに分かった。妙に視点が低いのだ。いつの間にか床に膝をついて、這うような格好で前に進んでいた。
(もう……)
 歩くほどの力も残っていないのだ。ようやくそれを悟り、自嘲気味に笑う。
 身体に力が入らない。少し動くたびに、ぼたぼたと血が滴る音がする。視界も暗く、ぐらぐらと歪む。
 それでも、進むのを止めようとはしなかった。目が見えなくなってきても、この通路の先に何があるのかだけは知っている。それで十分だった。
 どれくらい進んでいただろう。大した長さの通路でもないはずだが、今のエノクには無限の長さに思えた。
 ようやく終着点が見えた。
 あの、アルフィティーネの部屋の扉の前だ。毎日見てきた、あの豪奢な装飾の前。
(……還ってきた)
 そう呟くと、エノクは倒れ伏し、意識を失った。

 扉の外で、かすかな音がした。
「っ!」
 アルフィティーネの身体がびくんと跳ねる。ぺたりと床に座り込んだまま、恐る恐る首だけ動かして扉を見た。
 扉が何も変わるわけではない。だがアルフィティーネの能力は、確かに扉の向こうにいる何者かの気配を感じ取っている。
 強烈な<死>の匂いを。
 がちがちと、歯の根が噛み合わないほどに震える。立ち上がろうとして膝が笑ってしまい、かくんとバランスを崩した。それでも壁に手をついて何とか立つと、ふらふらと扉に向かう。
 扉が開く。
「――――!」
 扉の外にいたものの姿に、アルフィティーネは言葉を失った。
「エ……」
 エノクだ。
 アルフィティーネが見たものは、背に何本もの矢を突き立て、全身に傷を負って扉の前に倒れる自分の護衛騎士の姿だった。
「エノクっ!」
 悲鳴混じりに叫び、彼の側にかがみ込む。目を固く閉じ、完全に意識を失っているようだ。その顔には血の気というものがなく、いつも彼を包んでいた覇気はまったく感じられない。
「エノク……エノクっ!」
 何回も耳元で叫ぶ。涙が混じり、最後にはかすれ声となった。
 目の前に倒れるエノクは、何よりも濃厚な死の気配を纏っている。何よりも見たくなかったものだ。だが、そんなものがなくとも、全身から流れる血を見れば……彼の命が尽きかけていることは明白だった。
 ずっと前から知っていたはずの事実。それが今、目の前にある。
 だが……
「嘘よ……嘘よね? ねえ、エノク……起きてよ、目を開けてったら……」
 アルフィティーネは泣き笑いのような表情で、かすれるような声音で呟く。肩を揺さぶりたい衝動にかられたが……アルフィティーネにはそれだけは出来ない。
「エノクっ……」
 あとはもう言葉にならない。倒れるエノクの横に膝をついて、しゃくり上げる。
 こぼれた涙が一粒、エノクの頬に落ちた。
「う……」
 かすかにうめき声が聞こえる。
 倒れたエノクの指先がぴくりと動いた。アルフィティーネの言葉に応えるように、うっすらと目を開ける。だが、その瞳は虚ろで、まったく光が見えない。
「アル、フィ……ティー……ネ、様……」
 エノクが吐き出す息に載せるようにして囁いた。だが、その顔はアルフィティーネとはまったく別の方向を向いていた。もはや目も見えていないのだろう。
 それでも、すぐ側にアルフィティーネがいることだけは分かるようだった。
「かえ……って……きた……」
 俺は約束通り、貴女を護って、還ってきましたよ。
 そう囁いて、エノクは誇らしげに笑った。
 一等賞を自慢する子供のような、ひどく幼い……しかし純粋な笑みだ。アルフィティーネも初めて見る表情である。見慣れないが、優しい。
 だが、アルフィティーネはそれに応えて笑うことは出来なかった。今も、黒い靄《もや》がエノクを侵食し続けている。
 アルフィティーネが恐れ続けた、永遠の別離――それが迫っている。
「ねえ……置いていかないで、お願いだから……」
 すぐ横でしゃくり上げるアルフィティーネに気付いたのか、エノクの表情がかすかに変わる。子供のような貌からいつもの彼に戻り、微笑んだ。
 ――俺はもう何処にも行きませんよ。ずっと貴女の側にいますから。
 これからも、貴女を護りますから……
「あ……」
 もはや、自分の状態も分かっていないのだろうか。アルフィティーネが愕然とする。
 それでもまだ自分に尽くそうとするエノクの心が、今はただ痛かった。それが叶わぬ望みであることを知っているからだ。
「ごめんね……」
 それだけしか言えなかった。もし、自分がエノクに彼の運命を伝えていたらどうなっただろう。最初に彼が言ったとおりに、この神殿から離れていれば……
(……いや)
 それも無駄だったろう。アルフィティーネの死の感知は絶対である。あがいても逃れられるようなものではない。
(だったら……どうすれば良いの?)
 ずっと、エノクは自分に寄り添って護ってきてくれた。けれど自分には何も出来なかった。死にいこうとしている今でも……
「…………!」
 そこで、気付いた。自分は何者だったか?
 <死>の神の巫女。死を看取り、門から送り出す番人。安らかな死をもたらす死神。
「あ……」
 やっと、迷いが吹き飛んだ。
 今までそうしてきたように、精一杯に笑ってみせる。エノクの側に膝をつくと、そっとその頬に手を触れた。
「あ……」
 エノクの唇から声ともつかない吐息が漏れた。
 ずっと近くにいたのに、触れることすらかなわなかった存在。ようやく手が届いたのが別離の直前とは、何と残酷な皮肉か。
 触れた部分から温もりが伝わってくる。それは、今までアルフィティーネがエノクから感じていた優しさと同じだ。だが……それは静かに失われつつある。
 エノクの頬に、アルフィティーネの涙がこぼれ落ちる。エノクの耳元で囁いた。
「あなたのいたこの場所が、私の全てだったの。私の世界は、あなたの中にしかなかったの……」
 かすれるような声音で囁く。
 その力故に、全ての生き物から恐れられる<死>の巫女。その彼女を受け入れ、見守ってきてくれたのは、エノクだけだったのだ。
 アルフィティーネが自由でいられる『世界』は、エノクの心の中にしかなかった。
「ア……ル、……フィ……」
 アルフィティーネの声が届いたのかどうか、エノクの唇が小さく動く。だが。
「もう何も言わなくて良いの。ただ、静かに眠って……」
 それだけが、私に出来る全てだから。
 エノクの言葉を封じるように、アルフィティーネは彼の唇に自らのそれを重ねる。誰かと唇を重ねるなど、初めてだった。
 触れた唇から伝わってくる感触は、柔らかく、温かく……そして哀しい。何もかもを忘れ去って、アルフィティーネは伝わってくる感覚に身を委ねた。
 一番大切な人が、何よりも近くにいる。それだけが全てだった。この瞬間が永遠に続いたら、どれだけ良いだろう。
 アルフィティーネの気配を感じながら、エノクがその目を閉じていく。彼を包んでいた死の気配が、ゆっくりと薄れていく……
 どくん、と何かが蠢《うごめ》いた。
 エノクを包んでいた黒い靄《もや》が、脈打つように動く。消えかけていたそれがいきなり形を変え、触手のように蠢《うごめ》いた。
(…………!)
 黒い死の触手が、アルフィティーネをも侵食していった。重なる二人を、黒い死の気配が飲み込んでいく。
 エノクがはっと目を見開いた。まさか!
 エノクは黒い靄《もや》を見ることは出来ない。だが、その気配だけは感じ取ることが出来た。これでは、アルフィティーネまでもが死の門をくぐってしまう。
「……これで良いの」
 急速に遠のく意識の中で、アルフィティーネが囁いた。もがこうとするエノクをそっと抑える。
「お願い……もう、離れないで……私の……」
 言って、アルフィティーネは目を閉じた。エノクの隣で静かに微笑む。
 エノクもまた、再び瞼を閉じた。二人を漆黒が包み込み、一つの大きな影と化す。
 側にいられるように、と。最後までお互いが望み続けたことを、漆黒の靄《もや》が叶えるように。
 これが――哀しい<死>の巫女に、死の神が唯一為してやれることかもしれなかった。
 二人がお互いに向ける笑みは、たとえようもなく優しい。ただ純粋に相手を望む微笑だ。
 死せば、孤独となった魂は離れてしまう。二人がたった一つ恐れたことだったが、不思議と今はそんな不安はない。
 大丈夫。また出会える。また、共にいられる……
 アルフィティーネの身体が、エノクと折り重なるようにして倒れる。
 死の大きな腕《かいな》が二人を包み込み――そして、消えた。

               ●

 さわさわと、草のこすれる音がする。
 男は太陽の下、細い道を歩いていた。初夏の陽気で、空は高く青く澄んでおり、降り注ぐ日差しと目の前に広がる草原の緑がまぶしい。
 豊かな大地だと、誰もが思うだろう。人々に恩恵をもたらす、豊穣《ほうじょう》の大地。広がる緑はその象徴だ。
 男はしばらく、その草原を見つめていた。何故だか分からないが、昔これに憧れたような……そんな感覚を覚えるのだ。荒野の片隅で、この緑を望んだような。
(…………?)
 理由も分からず、草原に足を踏み入れた。さくさくという草を踏む心地良い音を聞きながら、草原の中を歩いてみる。
 ふと、風が吹いた。葉と男の髪をそっとなびかせ、通り過ぎる。ざわざわという音が響いた。
 その音に急かされるように、心の中に何かが沸き上がる。得体の知れない焦燥感が、ちりちりと胸を焦がした。
 何か……思い出せそうで思い出せない、そんな感覚。
(何が……)
 その正体は分からない。だが、何かを見つけられそうな気がする。
 この草原に、何があるというのか――
「…………!」
 遠くに見えるものに、男は黙って立ち尽くした。
 人影だ。何人かの少女。
 男が見つめているのに気付いていないのか、少女たちは草原を駆け回っていた。友人同士なのだろう、じゃれ合いながら笑っている。
 大きな花輪を手にした少女が、ひときわ明るく笑った。高らかな笑い声を響かせる。通り抜ける風のような、耳に馴染む心地良い声だった。
 少女は笑うと、近くにいた別の少女に花輪をかけてやる。花輪を貰った少女が何か言うと、その少女ははにかんだようにまた笑った。
 透明な微笑。硝子を連想させる、華奢で繊細な笑み……
(…………あ)
 かちり、と心の奥で何かがはまった気がした。未完成だったパズルの最後のピース。
「あ……」
 何なのかは分からない。だが、既視感と焦燥感が心を支配する。
 立ち尽くす男に気付いたのか、少女もこちらを向いた。
「…………!」
 男は息をのむ。
 確信にも似た感情が沸き上がる。自分はあの少女を知っている。あの笑顔を求めていたことがある。あの傍らにいたことがある……
 少女の方も、口元に手を当てて目を丸くしている。同じ事を考えているのだろう。
 やがて、少女がまた笑った。透明で優しい……おそらくは、彼がずっと探していたものと同じ微笑。
 もう迷わなかった。
 満面の笑みを浮かべると、少女に向かい、男は真っ直ぐに駆け出した。

 
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